ついに、アメリカの空港に到着した。
飛行機を降りた瞬間、思った。
「……ガチで来ちゃったな」
なんかもっと、こう—— 映画みたいに
「ついに来たぜ、アメリカ!」
みたいな感動があると思ってた。
でも現実は違った。
不安9割、ワクワク1割。
脳内を流れるテーマソング
ちなみに、その貴重な「1割のワクワク」の正体は、
信じられないくらい不純な下心だった。
高校の頃、アメリカの映画やドラマを観ては、
頭の中で壮大な妄想ストーリーを完成させていたのだ。
ターゲットは、ブロンドヘアで青い目のハリウッド系美女。
「こういうお姉さんと出会って〜、 なんかいい感じの雰囲気になって〜、 そしたら英語も自然にペラペラになっちゃって〜」
いや、どこの映画だよ。
当時の僕の脳内、完全にテーマソング流れてたからね。
気分は完全に、全米が泣いた大作映画の主人公。
……だったのだが。
開始5分で、そのキラキラ妄想は跡形もなく崩壊する。
最初の試練は入国審査
最初の試練は、入国審査。
体格のいい係員が、威圧感たっぷりに何か言っている。
……マジで、1ミリも分からない。
ここで、僕の人生において最も重要な 「あのスキル」が初めて発動した。
新スキル習得:【わかったフリ】
とりあえず、深くうなずく。
ちょっと「真剣に考えてますよ」風の顔をする。
たまに、絶妙なタイミングで「Yeah…」と言ってみる。
中身? 理解度ゼロである。
タクシーでの5秒間
でもなぜか、スタンプをポンと押されて通過できた。
通してくれた理由は今でも謎だ。
僕の顔が、あまりにも無害でアホそうに見えたからかもしれない。
冷や汗を拭いながら、なんとかタクシーに乗り込む。
「よし、車内なら一対一だし、なんとかなるだろ」
……甘かった。
運転手、めちゃくちゃ話しかけてくる。
しかもマシンガントーク。
完全に、僕の知っている「英語」とは別の言語だった。
ここで再び発動。
【わかったフリ】
「Yeah…(分かってない)」
「Oh, nice!(全然分かってない)」
「Haha!(マジで何の話?)」
とりあえず相づちの三段活用だけで乗り切る。
しかし、すぐに限界が来て、脳の奥底から知っている単語を絞り出した。
「University…… please」
伝わった。
会話、終了。
所要時間、約5秒。
いや、もはや会話ですらなかった。
コンビニ店員からの先制攻撃
街に出た瞬間、さらにダブルパンチを食らう。
建物も、車も、店も、人も、全部デカい。
そして何より、人と人との距離感がバグっている。
みんな初対面なのに、いきなり笑顔でハイテンション。
ちょっとしたお店に入ったとき、店員がこう言った。
「Hi! How are you?」
……いやいやいや、待ってくれ。
なんで急に、僕の体調を気遣ってきたの?
こっちはまだ、心の準備が1ミリもできていない。
教科書通りに「I’m fine.」とだけ答えて、 これでターン終了だと思ってた。
終わらなかった。
店員、さらに笑顔で何かを畳み掛けてくる。
——無理。処理落ち。
ここでもすかさず発動。
【わかったフリ】
満面の笑みでうなずき、それっぽく「Yeah!」と返す。
これで乗り切った。……たぶん。
この時、僕は身を以て理解した。
アメリカの会話って、一往復じゃ絶対に終わらない。
理想と現実のバグ
その日の夜、初めて静かな部屋で一人になった。
ベッドにぽつんと座る。
その瞬間、昼間の興奮が冷めて、
現実が一気に押し寄せてきた。
「……これ、マジでやばくないか?」
英語は、ほぼ分からない。
会話は、一歩も成立しない。
知り合いは、地球のこのエリアにゼロ。
昼間、映画のような世界を妄想して、
キラキラした出会いを夢見ていた自分を思い出す。
安全な日本の田舎町から飛び出してきた僕の前に、 冷酷な現実がそびえ立っていた。
「……誰ともまともに喋れてないんだけど」
理想と現実の差が、エグすぎる。
丸腰のボス戦、開幕
でも、僕の脳細胞の素晴らしい(おめでたい)ところは、ここからだった。
あれだけ絶望的な状況なのに、なぜか最後にこう思ったのだ。
「まあ……なんとかなるか」
出た。いつものやつ。
根拠、ゼロ。 状況、最悪。 未来、不明。
なのに、なぜか前向き。
今振り返ると、この日の僕は完全に丸腰だった。
準備不足とかそういうレベルじゃない。
ほぼ初期装備のハダカの状態で、ラスボス戦に突っ込んだ感じだ。
でも、唯一持っていた初期スキル「わかったフリ」。
これが、なぜか異国の地で生き延びるための最初の鍵になった。
この初日で、痛いほど分かったことがある。
- 海外は、びっくりするほど甘くない。
- 英語は、マジで呪文のように難しい。
- 僕は、自分で思っている以上に何もできない。
それでも進むしかない
そしてもう一つ。
「分からなくても、とりあえず笑顔で乗り切ることはできる」
これは地味だけど、サバイバルにおいてめちゃくちゃ重要なスキルだった。
恥もかく、失敗もする。
いや、むしろここからがメインイベントだ。
だって、進む以外の選択肢がないのだから。
明日から、いよいよ本番の授業が始まる。



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